【桜庭一樹/私の男(直木賞受賞作)】読了後の感想&ネタバレ

こんばんは^^いま夜の23時半なんですけど出前一丁食べてしまった…夜中のラーメンってなんでこんな美味しいの??誘惑に勝てない。でも何かの本で、夜中食べる時は卵入れるといいって読んだので卵入れました^^

今日は私の好きな作家さん、桜庭一樹さんの「私の男」の感想を書きます。ネタバレ含みますので注意してください(‘◇’)ゞどんな話か気になる方に。長文です、すみません…

「私の男」は第138回直木賞受賞作。

腐野淳悟は、震災で孤児となった10歳の花を引き取り親子になるのですが…

2008年6月 花と、ふるいカメラ

物語は「今」から過去に遡る形で進んでいきます。花24歳、淳悟40歳。花は茶髪で巻き髪のロングヘアにひざ丈のフレアスカートと、よくいる若い女性の描写で、淳悟は背が高く肩に届くくらいの髪、無職だがどこか優雅。歳の離れた淳悟に対して、ふるびたもの=少しの軽蔑といとしい気持ち、という花の気持ちはすごくよく分かる。

淳悟と花は雨の降る銀座で待ち合わせをし、盗んだ傘で2人で歩き、花の婚約者である尾崎美郎が待つお店へ向かいます。この時はまだ、淳悟の匂いを雨の匂いになぞらえたり、顔を見ると哀しくなるのにからだは勝手に喜んでしまう、という花と淳悟の関係がよく分かりません。「父が」とは書かれず「(私の)男」と書かれているからです。

美郎は育ちの良い男性で、明日の花との結婚式のために話をしますが、花と淳悟と美郎、3人が話し始めてようやく淳悟が花の養父であることが分かります。15年前、花が小学4年生で淳悟が25歳のときに、花を引き取り養子縁組をして育ててきて、淳悟が32歳のとき2人は東京にやってきたと。そんな若い時に小学生の女の子を引き取るなんてすごい。自分なら考えられません。美郎も同じように関心してましたが、花と淳悟はどちらも「お互いしかいない。血の繋がりのある唯一の存在」と思いあってるようで、淳悟も「血は水より濃かった」と言っていて、血の繋がりに重きが置かれてると感じました。

美郎は淳悟に、花嫁が身に付ける4つのものの1つ、「家に伝わるふるいもの、サムシングオールド」を頼んでいて、淳悟はふるい小型カメラを持ってきていました。それを見て怯える花。そのカメラの持ち主である老人は死んでいて、「殺したからね」という淳悟。しかもそのカメラには殺した犯人が映っているといいます。

「あの男。私の男。養父で、罪人。」という一文から淳悟は殺人者なのか?と怖くなります。そうとも知らない美郎と別れて、花は淳悟と暮らす銀の夢荘というふるびたアパートに帰るのですが、雨に濡れて帰った淳悟に「風邪ひいてない?」と気遣う花に対して「それならあたためてくれよぉ」と言って抱きしめる淳悟。この時点で薄々気付いてはいたものの2人が普通ではないことが分かります。殺人も絡んで、この仄暗いぞわっとする感じがすごい好み…

淳悟に抱きしめられて囁かれて、吐き気がするほど嫌悪感があって嫌なのに(それが普通の父親に対する正常な反応ですよね)、そばにいたい離れたくないと思う花。抱き合ってキスをして、もうこの先への欲望はない。でも昔には応じていた、ということは2人は養子といえど父娘で一線を越えていたということです…

淳悟は言動もさることながら、開かない瓶を台所に打ち付けたりとちょっとおかしい感じがします。そして花は隣人の女に怒鳴られたとき、淳悟がその女の顔を叩き守ってくれることに対して安心感と恐怖心があり「嫌なかばわれ方をしても嬉しくてたまらない」と思うのですが、こういう女独特の感情の描写がものすごく上手いと思います。

時間にルーズな花と淳悟ですが、案の定結婚式の約束の時間になっても淳悟が現れず、先に始めようという美郎。花は「淳悟がこないなら、結婚しない!だって、お父さんがいないもん!どこにも、どこにも、行けないわ…」と自分でも幼稚だと思うような叫び声をあげてしまいます。遅刻してきた淳悟に花は離れられない、でも離れないといけない哀しさでいっぱいに。普通の親子には流れない花と淳悟のただならぬ雰囲気に戸惑う係のお姉さんの気持ちもよく分かります。2人の会話から罪の共有をしていると分かりますが、こういうバレたらやばい罪の秘密は絆を強固にしますよね。他に代わるものがいないから。憎くても肉親だと切り捨てられないのと同じかな。

二次会の間に花が決心したように、「もう二度とつかまらない。若くない、怖い男に。」と思うシーンがあって、若い女性で上に年の離れた男性と付き合ったことがあるなら気持ちが分かるんじゃないかなって思った。卑怯な優しさがあるというか、利用されてる?て思ったり若さを搾取されるようで不安になったり、うまいことされて離れられずに歳を取って、女として1番綺麗な時間を奪われてしまうっていうか。自分が選んでるといったらそれまでですけどねっ。花は24歳で気付いて偉い。はじまりが早すぎたっていうのもあるけど。かなり年上が好きな女の人は、父親の愛情に恵まれなかったのかなって持論がある私です。

新婚旅行で美郎とフィジーに来た花。美しいエメラルドの海を見ても真っ赤な夕日を見ても「こわいところも惹かれるところもみじんもない」という冷めた花の心はどうなっているんでしょう。ばかみたいな海とか言っちゃうしw楽しんでる美郎が哀れに思えてしまうほどです。

新婚旅行から帰ると銀の夢荘の大家から留守電が入っていて、アパートに行くともぬけの殻になっており驚く花。そこに淳悟と花の古くからの知り合いだという小町さんが来ます。昔は若くて綺麗だった小町さんも、今では逆で、花が若くて綺麗で小町さんは太って醜い中年のおばさんになっている。女にとって時の流れがどんなに残酷か物語ってます。

小町さんが淳悟は死んだと言って花を見下したような同情したような、嫌な言い方をします。花も小町さんも昔からお互いが嫌いなのでした。そして花は8年間開けていないという自分と淳悟の罪を隠した押し入れを開け、何もないことを確認すると淳悟がそれを処分してからいなくなったのだと分かってショックを受けます。でもすぐ死んだのは嘘だと分かって小町さんに詰め寄り言い合い、淳悟のように躊躇なくお腹を蹴ったり頬を叩く花。度々表現される淳悟と花のよく似た行動、言動、見た目(切れ長の目とか)で、徐々に読者にある疑問を抱かせてるんですよね…「本当に養父なの?」っていう。

2005年11月 美郎と、ふるい死体

美郎と同期の男と女の子2人が、東京丸の内のレストランでランチをする場面から始まります。派遣の腐野花に凶悪なヒモがいるという噂話が話題に出ていて、女の子2人が量産型タイプで可愛くあざとい感じがうまく表現されてます。同期の男と違い、美郎はそんなランチコンパにも噂にもあまり興味がない様子です。

美郎は同じ会社で7つ上の32歳の安田課長と付き合っていましたが、頼みやすい性格が災いして、先輩に、誘っても乗ってこない受付の派手な女の子との食事のセッティングを頼まれます。いつも目当ての子の隣にいる別の女の子を誘ってうまいこと4人で食事しようと。面倒で承諾する美郎にもう1人大学時代からの彼女の菜穂子からメールがくるんですが、美郎がそういうタイプだと全然思ってなかったのでビックリでした!こういうタイプは男も女も絶対関わりたくない!人の気持ちを裏切る人間は心の底から軽蔑する(゜-゜)

安田課長に優しい声掛けをした後に、受付の派手な方の女の子を隣の地味な女の子をだしにしてうまく誘い出し、そして菜穂子と会う美郎。その間に地味な受付の女の子に思ってもみないくさいメールを送って、菜穂子とラブホテルに行って、シャワーの間に安田課長に電話して。はぁ、むかつく”(-“”-)”マメな男はだめやな。美郎は美郎で、女にそんな仕打ちをしておきながら、菜穂子のことを重くなってきた荷物と表現したり、安田課長のことを”もう32歳のくせ”に子供のような甘えた返事が怖いとか、もう一生独り身でいろよ、と思った。地味な女の子からメールの返信がきて、そこに「腐野花」とあるのを見て「あの子が噂の…」と思い返す美郎。

約束の日の時間になっても、花は時間にルーズなので30分ほど遅れてやってきました。花に関しては見た目は他の女の子と同じなのに何故か地味で存在感がないことが強調されて、その気配にぞわりとする美郎。他の女の子に似せているようで個性がなく隣の女の子に同調するだけだった花が、美郎の育ちの良さが話題になると憐れむような視線を向けます。今まで値踏みされる視線しか受けてこなかった美郎は、はじめて個性を出してきた花の視線に動揺します。

食事が終わって美郎は花に今度は2人で食事を、と誘いますが、そんな自分に自分でも驚いたようでした。外に出ると痩せた背の高い男が立っていて「おとうさん」と呟き走り去っていった花。自分と父親、花とあのおとうさん、その違いとか、花が周りの人間と違うこともあってわくわくした不安と興味を抱く美郎。

そして12月になって2人は食事の約束をしましたが、2時間も遅刻してきて「約束してたことを忘れた」という花。私だったら12月の寒空の中2時間も待ったりしないしそんなルーズな子とは付き合えないけど、美郎は育ちがいいから周りにそんな人間がいない興味なのかな?そんなに責めることもなく食事をしてました。

酔った花を家の近くの東京拘置所の前まで送ると、雪が降る中50歳くらいの黒子の男が「”それ”は隠れて暮らしている」と独り言をつぶやくのを聞く美郎。花を雪の中で待っていた淳悟は、その男を気にする様子はありません。タクシーが捕まらないので3人で連れ立って、入ったこともないふるい2人のアパートに入り、嗅いだことのない危険な匂いを感じる美郎。淳悟に(花を)ほしいか聞かれて、まだはじめて話したばかりで2股してるくせに美郎は花を「ほしい」と思うんです。

怖いのに、笑うと人懐っこくて、痩せて貧相なのに優雅な淳悟はとても魅力的に思います。このアパートで一夜を明かした美郎ですが、トイレに行こうとドアに手をかけ間違えて襖を開けてしまいます。そこにはさっき拘置所の前にいた額に黒子のある50歳くらいの男が座っていて、こんなところに人がいるはずないと、夢だと思う美郎。

その後も何度か美郎と花は食事に出かけるのですが、遅刻してくる花に対して「誰にでも欠点はあるからいちいち目くじらを立てては楽しめない」と考える美郎はいいなと思った。生き方は軽蔑するけど考え方はいいなと思う。その後クリスマスも花はうちに帰るというので安田課長と菜穂子の両方とうまく会って会話をするのですが、花のことばかり気になる様子です。興味が好意になって、愛情になって大切な存在になれればいいけど、こんな風に愛情に変わることなく興味がなくなって飽きてしまうと関係は終わりですよね。人間だから心は変わるけど、努力はできる。

2000年7月 淳悟と、あたらしい死体

予感はしていたものの、急に直球な殺人の場面ではじまるので少しびっくりします。田岡という男を包丁で刺す淳悟。「もうどうなってもいい、1度も2度も同じだ」とありますが、1度目は何だったのでしょうか。

女子高生の花と、契約ライダーで急ぎの配達の仕事をする淳悟ですが、この時2人は既に一線を越えている描写があります。「子供の頃」と花が振り返ってたのでもっと前からかもしれません。虐待、ですよね。ストックホルム症候群に近いのかもしれないですけど、自己愛の低い2人の共依存と片づけてしまうには花は幼すぎます。虐待される子供が親をかばうのもよく聞きますし、そんな子供の親は総じて「被害者意識」があるそう。淳悟は花に手をかけた加害者だけど、自分の若くて楽しい自由な時間を花に捧げているわけで、本人も自覚してないその「被害者意識」を花は感じ取っていたのかもしれないと思いました。赦せない、嫌い。でも愛しくて守りたいという矛盾な気持ちはそんな背景と家族を知らない孤独な心が由縁なのかなと。

仕事を終えアパートで花の帰りを待ちながら料理をする淳悟のもとに、田岡という50歳くらいの額に黒子のある男がやってきます。美郎が見た男と同じ特徴ですね。田岡は「北」で世話になった大塩という老人を殺した犯人に目星をつけ、東京まできたのでした。「”それ”は隠れて暮らしている」とあのセリフを言います。”それ”は殺人者のことで、ある日突発的にカッとなったりして殺人をするのだから誰でも殺人者になりうるというのを田岡は信じず、殺さない人間が大半だといいます(確かに)。でも、殺すか殺さないかはその人が社会的な存在かどうかにかかっているっていう所から田岡の考えに私は疑問が浮かんできました。

社会的な存在ってなんだろう。地位のことかな?社会的地位がある人は人を殺さないというのは違うし…公務員でなくなった淳悟を根無し草の顔になったと田岡は貶すけど、娘のためにその日暮らしの仕事でも頑張ってる淳悟の何が悪いのか。男ならその地に根を張って、とか言うけど私は古臭い考え方だなと思った。(あとから分かるけど、それって大塩さんの受け売りやん、安い男ー)

それに、社会的な存在の人達に紛れ込んで隠れている殺人者は、一皮むけば豚みたいな人間、と言うけど、豚を貶すのやめて下さいって感じ。そんな殺人者は自分のためだけに生きていて、愛する者は自分と身内だけで、利己的で反社会的で良心を持たないと田岡は続けるんですけど、自分や身内だけを大事にして何が悪いの?家族を大事にするからその周りも大事にできるようになるんじゃないの?友達も大切にしてるけど、家族は特別。家族だけは傷つけたくないと思って暮らしてる人たくさんいると思うけど。事件や犯罪を目にしても、全く知らない人ならその時は心を痛めてもすぐに忘れたりどうでもいいと潜在的に思ってる人とか。それを責められたら世の中殺人者予備軍だらけな気がする。

田岡はそんな殺人者の顔が見分けられるらしいです。そんな人でなしは豚みたいに生きてくしかない、食べるのものも豚の餌だと言って、淳悟が花のために作っている料理を見下ろす田岡。花が殺した。だから罪を償わせたいとここまでやってきたんですね。殺された大塩のおじいさんの銀色のカメラに残った写真を現像する前に、殺したその顔を見て確かめたいと言います。自分の顔を差し、見てどうでした?と問う淳悟に、庇うのはよせ、娘の顔を見せろという田岡。もうばれてるんだというように淳悟は青くなっていきます。そして最初の場面に繋がるわけです。

淳悟の目が、大塩を殺したであろう花と同じように濁っていく描写が印象的でした。それから2人は更にお互いに落ちていきます。

2000年1月 花と、あたらしいカメラ

花がもうすぐ16歳になる高校生のときの話。学校の教室から見える雪が降るオホーツク海をじっと見つめる花。海上保安部の巡視船をさがし、おとうさん寒いだろうな、と考えているので、淳悟は海上保安部で働いてるんですね。

花は小学4年生まで北海道南西沖の小さな島に住んでいましたが、両親と兄と妹が亡くなったので淳悟が25歳のときに引き取られて、今は紋別市に住んでいるとのこと。

ここでは、このちいさな町と人について書いてあります。同級生で同じ吹奏楽部の友達、章子は酪農家で大家族。転校してからずっと一緒の明るくて可愛い女の子で、同じく暁は大塩という札幌でも土地を持っている裕福な一家の息子。この土地の人はみんな大塩さんを頼りにしている。そのおじいさんは暁のおじいちゃんで、昔飲食店を経営する社長でお金持ちだったが、北海道拓殖銀行の破綻のあとは店を手放して、銀のカメラで趣味の写真撮影を楽しんでいる。そして7年位前から紋別警察署に勤めている田岡さん。大塩のおじいさんのとりなしで紋別にやってきたという。

花と淳悟は海上保安部の長屋のような寮に住んでいて、急な呼び出しによる出勤や北方領土近くまで出かける淳悟は家をあけることが多いので、花は暖かい家よりも寒い外でいつまでも海を見ながら淳悟が帰るのを待ちます。大塩のおじいさんは、孫の暁の嫁に花ちゃんをくれと冗談交じりに言うことがあって、そのたびに花は真剣に結婚なんてしないと言うけれど、淳悟の信じていないという態度を不思議に思います。結婚したら女は夫の墓に入るから、淳悟と骨になっても一緒にいたい花は結婚したくないみたいです。

女の子ってやっぱり小さい頃はお父さんのお嫁さんになりたいとか思ったりするけど、あっという間に嫌悪感を感じるほど嫌いになるんですよね。で、またもう少し大人になると父親に対する愛情に変わってく、みたいな。生物学的に、思春期の娘が父親のことをそれくらい嫌いにならないとだめなんだっていうのは分かるので、うまくできてるなぁと思います。男には、そういう機能はないみたいだけど、女は遺伝子が近いとその匂いが嫌いになるみたいで、だから父親の匂いが嫌になるんですね(゜-゜)そういえば私もお兄ちゃんの匂いダメです。ワンタンメンの匂いがして(笑)この小説の軸でもありますが、そう考えると、父親や近親者から性的虐待にあう女の子の辛さは筆舌に尽くしがたいですね…

ここでは、雪が降ってる様子を白い虫と表現する花が印象的で、普通の女の子は、雪は幻想的でロマンチックなイメージだと思うんです。慣れていたとしても。幸せそうな花ですが、綺麗な雪が虫に思えるのは何か潜在的な投影があるからなんでしょうか。

ある日、淳悟が流氷パトロールで10日程家に戻らないことが分かって落ち込む花に、淳悟が近付いてきてキスをしているところを少し開いていたカーテンの隙間から大塩のおじいさんにカメラで撮られてしまい、その関係がばれてしまいます。

花を旭川の親戚のところへ預けようと準備をして、お嫁に行って紋別には戻らないほうがいいと、淳悟への怒りを含んだ声で大塩のおじいさんは花に言います。花が触れると汚いものに触られたようにびっくりしたり、暁のことを言わないおじいさんは、淳悟が悪いと思いながらも得体のしれない花が怖かったんでしょうか。自分の孫にそんな女を嫁になんて冗談でも言いたくないから。花はカメラで撮られてからずっと、なにかを決心しているようでした。

大塩さんは、でも、そんな花を一生懸命心配していて、とうとう離れた流氷に乗った花を追いかけてきて「忘れなさいヨ、あんなことは」と言います。この語尾がカタカナって年配の人はメールでもよく使うから、とても現実味のある話のように感じます。桜庭さんの小説は、話は怖いファンタジーみたいなのにどこか現実的なのが魅力だと思います。

そんな優しい大塩さんでも、自分と淳悟を離そうとするから、花は決めます。「殺す」。

離れた流氷から陸地続きの流氷に飛び乗った花を追いかけるように足を伸ばす大塩さんを花は思いっきり蹴飛ばし顔を殴り、大塩さんはどんどん流されていきます。骨になってもずっと淳悟といたいと言う花に、大塩さんは花にされたことに怒りも怖がったりも助けを求めたりもせずまだ心配そうに「あんた知らないんだ」と何度も言います。やはり、花と淳悟は血の繋がった実の親子でした。でも、花はそれを知っていました。その表情を見て、知っていたということに大塩さんが気付いて、はじめて恐怖の表情で花を見ました。

ここは小説の中で1番心に残ったシーンで、親子でしちゃいけないことなんてあるの?誰よりも大切なのに、という花に大塩さんは、世の中にはしてはいけないことがあると、神様が決めたんだよ、子供のあんたには分からない、と言います。大塩さんは最期に花をカメラで撮りました。

花はその場から去って、大塩さんは死んで葬儀になります。遺体に殴られたような跡が残っていたことから他殺ということになり、誰にやられたのかとみんな黙ってしまいます。葬儀中に田岡さんが淳悟のところにきて話をして、ふと花を見て去ろうとするのですが、また戻ってきて食い入るように花を見つめます。

それから春を待たずに2人は東京の小町さんを頼って北海道を出ました。友達の章子に電話をする花ですけど、友達だから分かってほしいと思っても分かるはずはない辛さは苦しいよな、と思いました。自分は汚れていて、章子や暁まで汚したくない、黙っていて申し訳ないけどおとうさんでいっぱいの花。未来のことを考えて、ここで終わったらずっと、気持ちも変わることなく一緒にいられると思い、淳悟を殺そうか迷いますが、淳悟はなんだか生きていたいような気がしてやめます。

自分と全然違う生活をして育った人と一緒にいると、すごく眩しい気持ちになるけどそういうのに近いのかな。眩しいけどびっくりするし自分が可哀想な惨めな気持ちになるからそういう瞬間は好きじゃないんですけど( ;∀;)基本どんなに明るくて正しい人でも人に言えないような暗い秘密を持ってると思っている自分が裏切られたような気持ちです。そんな醜い過去を持ってるのはお前だけだ、そうやって辛さを紛らわせようとするな、卑怯者、みたいな。

その後ですが、大塩さんを殺したら淳悟の欲望の正体も分かるような気がして、乾いた気持ちになる変わってしまった花がいました。

1996年3月 小町と、凪

小町さんの花への憎しみが書かれています。まぁ、この時小町さんは淳悟と5年も付き合っているので、彼氏がいきなり小学生の女の子を連れて帰ってきて面倒を見る、ってなったらびっくりするし自分の将来を考えたら邪魔ものの女の子が憎くなるのは分かるけど、小町さんは花のことが見た瞬間から苦手みたいです。

男の人が考えるようなものじゃなくて、もっとちがう死んだ魚みたいな暗い目が嫌だという小町さん。確かに、男の人って時々信じられないくらい女を見抜けていないから本当に驚きます。えっ、分からないのー?!って。同性同士には分かるなにか、ってありますよね。

でも、小学生の女の子相手にいい大人が嫉妬心むきだしでその体型を子供みたいと(当たり前なのに)バカにするような描写もあるので、私は小町さん好きじゃなくなりました。アイシャドウのことを「小町さんのここ綺麗ね」と褒めてくれる花は女の子らしくて私なら可愛い子だな、と思うのに、淳悟との結婚の邪魔ものというスクリーンがあるからか「めざとい」と憎らしく思う小町さん。田岡さんにも「化粧についていろいろ聞かれたわ、まだ子供なのに女の子ね」といろいろ聞かれてもいないのにそういうこと言う嫌な女、って感じ。

背が高くて見栄えのいい淳悟と、自他共に認める美人の自分を得意に思っていたけど、淳悟が浮気するたびにプライドが傷付いて諦めの凪がくるという小町さん。淳悟とホテルにいる間も勝手にかばんをみてピアスをあけて、他の女にあげるのかと想像したり、淳悟に花の話をして、その時も「あんな子供が」とそればっかりいう小町さんは、まだ小学生なのに花の妙に大人な部分に気付いているのか、淳悟を奪ってしまう存在だと勘付いているのか、だから強調するみたいに子供子供と言うのかな。

淳悟と花のことが気になって、その異物に誰も気づかない不満とかストレスでいっぱいの小町さんは、それを食で紛らわせてどんどん太っていきます。性格悪いけど、なんだかこの人も可哀想ですね。公園で、淳悟が花の膝に顔をうずめて「おかぁさぁん」と何度も言い、花が微笑を浮かべながらその頭をなでる姿を見て、なんてグロテスクな光景だと怖くなる小町さんは、もう何も知りたくないと淳悟に会う回数も減っていきます。

それから花に会って、淳悟に殺されてもなにされてもいいんだ、という花に「自分の命は自分のものだ」というまっとうな考えの小町さんははじめて、花が気味悪くて邪魔しにきた厄介な存在ではなく、花の奥にいる男の欲望を感じます。淳悟の人生はこの子のせいで奪われたと思っていたけど、逆で、ほんとうは淳悟が純粋なこの子の人生を、大切なものを奪っていたんだ、と。

町の人もそんな奪われ続けるこの子に気付いてやたら優しくするのかもしれない、いや、本当は町の男たちも奪いたいのかもしれない。幼くて無垢な、大切なものを、と考える小町さん。小町さんて鋭いな。こんなこと言うのは誤解を招きそうだけど、日本人の男の人からはそういう欲望を感じて怖い時があります。幼い少女に対する後ろ暗い欲望っていうか。みんな気付かないように見ないように隠しているけど…そこを掘り下げるから桜庭さんの小説って魅力的なのかなー。そういったことに気付いた小町さんは、もうほんとうに淳悟のことは諦めます。

1993年7月 花と、嵐

まだ亡くなる前の花と家族の様子が書かれています。奥尻島の民宿の並びに建つ平屋で母親の膝で甘える妹と、勉強する兄、居間でテレビを見る父親。民宿の客に、兄妹似てないねと言われる度に、たしかにお兄ちゃんと妹はお父さんに似て目も鼻も大きいけど自分は細くて切れ長の目で全然似てない、と思う花。それを言われると父親は笑って、母親は元気がなくなる。母親は花に対しては怖い感じで、地震がきたときも妹だけを抱えて外にでて、父親に「おまえ、花は?」と言われても戻ってもこないので、愛情がないことが分かります。

花もそれは感じていて、初潮がきたときも母親に話すと「ああいう生まれ方をしたからーー」と憎らしげに父親に言うのを聞いていて、どこかこの家で自分だけが浮いていると思います。母親の態度から、父親に遠慮するように静かにおとなしく暮らしていたのでした。

子供って、いろんなことを感じられるし気付くのに、大人は甘く見て結構不注意に聞かれてはいけない、見られてはいけないことを言ったりしたりしますよね。私はそういう、なめた大人はすごい嫌いです。

地震で揺れた後、花を見つけて助けに戻ってきてくれた父親の背中で泣く花。ここのシーン本当に悲しいんですけど、もうすぐ後ろまで黒い津波が迫っていて、そのとき母親が転びます。それを見た父親が追い越してきたトラックの荷台に花を放り投げて、優しい顔で「花、がんばれ!花、生きろ!」と叫んで母親と妹のもとに戻っていきました。3人がその場で抱き合ってしゃがんで、すると兄も自転車で波に追われながら坂道をのぼってきてそこに合流すると、波がさらに伸びてきました。荷台に乗っていたおじいさんに「見んな…」と目を覆われたけど、兄が3人のもとにかけよった後にすぐ波にのまれて、家族一緒に消えてしまった光景を花はしっかり見ていました。

その後、避難所の体育館で並べられた遺体の中に父親と兄がいるのを見て、だんだん異臭を放って生臭くなる匂いを嗅いで、これが家族の匂いだと思う花。しばらくして、制服を着た淳悟がやってきて花を見つけます。海上保安学校時代の同じ制服を着た人に声をかけられて、似てるな、と言われると「俺の子だもん」と答える淳悟。大塩さんのところに連れていき、夜の気配を纏った大塩さんも、女の子が迷子の他人ではなく知り合いの娘だと分かると突然涙を流して花を慰め始めたので、身内だけを家族みたいに大事にする紋別の家の風習がこんなところにもちゃんと表現されているんだなと思いました。

淳悟に抱きかかえられて、眠くて目を開けていられなくなった花は、居間で母親に甘えて膝で眠っていた妹を思い出します。本当の親子ならあんな風に眠くなるんだって、淳悟が本当の親だとこのときに分かっていたのかな。それから淳悟が一人暮らしをする家に行き、花の服や必要なものを買いに行きます。

薬局の前で足を止めて、生理用品の棚を指さす花に、淳悟は彼女の1人っぽい女の人に電話して何を買えばいいのか聞きます。9歳だと言うとその女が早いと言ったみたいで、花はどきっとしますが、淳悟はそんなのカラダの勝手だろとどうでもいいように笑うのでほっとします。大人の女のいやらしさのせいで幼い花が傷付くのは可哀想だったので、淳悟のこのあっけらかんとした態度にはグッジョブ!と思いました。

それから服やパンツを買い、子供用のブラジャーを見つめて淳悟は花の胸をたたいていらねぇな、と言います。ふくれた花に「おまえ、怒ったの。俺のもんなんだからどこ触ってもいいだろ」と言う淳悟に納得する花。こういうの、嬉しいタイプです。ダメですね。

しばらく淳悟が一人暮らしをしていたワンルームで過ごした後、養子縁組やら転校の手続きをして、海上保安部の寮に移れることになったので引越しをするところで話は終わります。2人がぎゅっと手を繋いで、2人の道がずっと続いている、この手をずっと離さないだろう、とあります。でも冒頭の2008年の終わりには淳悟はいなくなっていて、私の男がいなくなったわたしの道がどこまでも伸びていた、で終わっているんですよね。

結局その後淳悟と花は再開するのか分からないけど、お互いを一生忘れることはないと思います。本当に、読みごたえのある好きなタイプの本でした。これは映画にもなっていて、私も見ました。見る時は1人の方がおすすめ(笑)

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